KEKB用バンチフィードバックシステムの概要


1. はじめに

2. ビーム振動検出用電極

3. 横方向振動検出回路

4. 進行方向振動検出回路

5. ディジタル信号処理回路

6. 横方向キッカー

7. 進行方向キッカー

8.Transient-base beam diagnostics


1. はじめに

KEKBや放射光リングのような、大電流、多バンチの電子(陽電子)を蓄積するストレジリングでは、進行方向(Longitudinal)にも、横方向(Transverse)にも、強力な、かつ多くのモードにわたるバンチ結合不安定が起こる可能性があります。このような不安定は最悪ビームを失ったり、入射蓄積を困難にしたりしますし、またそこまでいかなくても、ビームの品質を大きく損ねるので、予定したビーム性能(例えばルミノシティや輝度)が発揮出来なくなってしまいます。

このようなビーム不安定を抑制するためには、まずは不安定の源を退治することが大切です。一番強烈な不安定源は、ビームを加速・保持するのに必要な高周波加速空洞に寄生する、ビームから生じた不必要なマイクロ波です。しかしながら、不必要な成分を完全にとりきることはそう容易ではありませんし、そのほかの真空要素や残留ガス、光電子による何か未知の不安定が生じることもあります。実際、KEKBのHERでは残留ガスによるFast Ion Instability(FII)が、LERでは光電子によるPhoto Electron Instability(PEI)が生じるだろうと理論的に予測されていますし、TRISTAN-ARや中華人民共和国BPECで行った実験結果からも、非常に重要だと考えられています。私たちはそのようなことで生じるバンチ結合不安定を抑制するための個別バンチフィードバックシステムを開発しており、KEKBリング運転当初から運転に使用する予定です。

個別バンチフィードバックを行うためには、全てのバンチの(重心の)振動を個別に取り出し(位置検出)、本来いるべき位置からのずれをとりだしかつ位相を90度シフトし(信号処理)、この信号を適当なキャリアにのせたものを増幅し、キッカーを使いビームを蹴り戻す、といった過程が必要です。KEKBリングは1998年の秋(10月)運転開始予定ですから、それまでに実用機をKEKBリングに入れるための開発研究を進めています。今まで、KEK-PFリングやTRISTAN-AR(現PF-AR)リングにフィードバック装置のプロトタイプを入れ、実験研究を行ってきました。以下に、その概要を紹介します。


2. ビーム振動検出用電極

KEKB加速器の最小バンチ間隔は、2nsとなっています。このため、全てのバンチの位置を個別に検出するためには、電極からの信号が2ns以上のびていないことが必要です。つまり、インピーダンス整合が十分で、不要な反射等がないことが重要です。このため、3次元高周波解析プログラム等を用いて、数GHzまでインピーダンス整合がとれているフィードスルーを開発しました。次の図は、TRISTAN-ARの南衝突点に設置した、ビーム振動検出用の真空チェンバーです。


フィードスルーとしてN型のものを開発し、水平方向用に3対、鉛直方向用に3対、進行方向用(鉛直に配置)に3対の計18個の使用しました。真空チェンバーの内径は70mmで、円形導波管としてのカットオフ周波数は約2.5GHzです。KEKBでは、N型のものより周波数特性の良いSMA型の電極を使用する予定です。

電極からの信号出力を、power combinerで分け、それぞれを検出周波数づつ長さを変えたケーブルで遅延させた後、再合成します。これによりFIR型のバンドパスフィルターが構成できますので、検出周波数成分を中心とした信号成分が取り出せます。次の図は、TRISTAN-ARで2mA単バンチを蓄積したときのボタン電極からの信号波形とケーブルFIRフィルターを通した後の信号波形です。


3. 横方向振動検出回路

横方向位置(水平、鉛直)は、対向する電極の出力を引き算し、その2GHz成分を検波することにより検出します。具体的には、前に出てきたケーブルBPFの出力を180度ハイブリッドにいれ、差を4倍のRF信号で同期検波を行います。

4. 進行方向振動検出回路

進行方向位置は、位相検波で検出します。

5. ディジタル信号処理回路

ビームフィードバックでバンチをけっ飛ばしても、バンチの位置を瞬間的に変えることは当然できません。そこで、振動を抑える方向に運動量を変化させるようにうまくバンチをけっ飛ばすことが必要です。振動検出回路は、(私たちの場合)バンチの運動量のずれではなくバンチ位置の(本来あるべき位置からの)ずれを検出していますので、何らかの方法で位相を90度ずらす(位相シフト)計算をして、蹴る方向、電圧を勘定する必要があります。

ベータトロン振動の場合、振動数が大きいので、モニターを適当な距離をおいて設置しておけば勝手に位相が回っていきますので、2つのモニターの出力をベクトル的にうまく合成すれば、キッカーの位置で必要な位相情報を作ることができます。しかし、進行方向の場合、シンクロトロン振動は極めて遅く(例えばKEKBではリング100周で1周期とか)、位相が回るのは待っていられないので、信号処理回路で位相シフトを行う必要があります。

リング中を走る電子あるいは陽電子は光速で走っていきますが、一旦検出され、ケーブル等で伝搬する電気信号は、光速より遥かに遅く(大体2/3)、増幅器等電気回路の内部遅延もかなり大きいので、あるバンチにフィードバックするためには、1周分待ってけっ飛ばすこととなります。KEKBの場合、1周は約3kmもあり、この距離(時間にして10マイクロ秒)をアナログ信号(帯域幅で250MHzもある!)で遅延(待ち伏せ)させるのは非常識ですから、信号処理部でディジタル的に遅延させる必要があります。

検出したバンチ位置情報のうち、DC成分、横方向ならCODのずれ、進行方向ならRFに対する平衡位相のずれはバンチフィードバックで補正することはとても出来ませんが、この成分が残ったままフィードバック系が働いていると、貴重なパワーの大部分をこれに持っていかれ、大損をします。そこで、不要なDC成分を信号処理部で除去することも必要です。

以上の様な要請を満たす信号処理部として、508MHzで動作するハードウエア2タップFIRフィルターを開発しました。これは、振動の270度前の位置から90度前のものを引き算し、その結果を出力するだけの単純なフィルターですが、扱うバンチの数が5120もあり、またシンクロトロン振動数が大体0.01程度ですから、各バンチについて最低100周分の位置を記録していかなければならず、かなり大規模な回路となりました。

2タップFIRフィルターのブロック図。
509MSPSの8ビットFADCでビーム位置をディジタイズし、インターリーブ出力をそれぞれ高速データデマルチプレクサ(FDMUX)で1:16にデマルチプレクスし、かつ論理レベルをLV-TTLに変換します。それぞれのチャンネルはFDMUXから出力される16MHzの基準信号で動作します。FDMUXからの信号を、まず2つのメモリーの同じアドレスに同時に書き込み、次に引き算するアドレスのデータをそれぞれのメモリーから同時に読み出します。この2つにデータはFPGA内のALUで引き算され、高速データマルチプレクサ(FMUX)で16:1に合成され、最後にDACで509MHzのフィードバックデータとなります。

現在製作、調整中の2タップFIRボード。
高さはVMEトリプル高ですが、奥行はずっと大きく400mmあります。インターフェースはVMEです。マザーボードの上にそれぞれ4個のFDMUX、FMUX、DAC及びロジックコントロールFPGAが載っています。ADCとメモリー/ALUはそれぞれドーターカードとしてマザーボード上に載っています。

ADC daughter cardです。

高速データデマルチプレクサ(FDMUX GHDK4211)と高速データマルチプレクサ(FMUX GHDK4212)です。
これは、本ボードのために開発したGaAsカスタムLSIでそれぞれ約1.7kゲートの構成の136ピンQFPです。最大動作周波数は700MHz以上です。FDMUXは4ビットのPECLデータを16チャンネル4ビットのLV-TTLデータにデマルチプレクスします。8ビット扱うための同期機構も内蔵していますので、2個で8ビット用のデマルチプレクサとなります。FMUXは16チャンネル4ビットのLV-TTL信号を4ビットのPECL信号にマルチプレクスします。同様な同期機構があり、FMUX同士の同期はもちろん、FDMUXと同期も容易です。それぞれ、LV-TTL系への基準信号を出力させることが出来ます。

メモリー/ALU daughter cardです。
全部で16枚載りますので、1枚で2チャンネル分のデータ処理をします。

6. 横方向キッカー

横方向用のキッカーにはストリップライン電極を用います。次の図は、ARに入れてテストしたストリップラインキッカーです。

ARに入れたテスト用ストリップライン電極


7. 進行方向キッカー

進行方向用のキッカーはについては、ARでの実験ではLBLで開発されたSeries-drift-tube型のキッカーの試作型及び実用型を入れてフィードバックを行い、シャントインピーダンスの測定等も行いました。KEKBでは、イタリアのFrascati研究所で開発されたwaveguide overloaded cavityをもとに設計した空洞型キッカーを入れてテストを行う予定です。

8.Transient-base beam diagnostics

個別バンチフィードバック装置および個別バンチ位置モニターを使い、feedbackのon/offの直後のバンチの振る舞いを記録すると、 等の情報を得ることが出来ます。AR大電流実験の時とったデータの例を次に示します。いずれもバンチ電流は2mA/bunch、バンチ間隔は10nsです。
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This document is created and maintained by
Makoto Tobiyama
20/Oct/1997